芦屋のマンション

豊田市民芸館で見たアーツ・アンド・クラフツ運動のアメリカでの継承者で、近代建築の三代巨匠のひとりとされるフランク・ロイド・ライトが設計した芦屋にあるヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)が公開されていると知り、早速訪ねてみることにしました。

神戸方面へは基本的に阪神利用なので、乗る機会の少ない阪急神戸線。淀川橋梁で真横から宝塚線急行、京都線特急が並んだシーンです。京都線特急はロングシートの7300系ハズレ特急、よく見ると宝塚線梅田行が間に挟まってました。

西宮北口で普通に乗り換え芦屋川に到着、たぶん始めて利用する駅です。

芦屋川左岸の丘の上に立つヨドコウ迎賓館。芦屋川を渡ったところに「ライト坂」と立札。

そのライト坂を登ります。14%の勾配、息が切れます。

ヨドコウ迎賓館です。吹き抜けの空間は車寄せ、空間の右側は意外なほど狭い玄関、その前に大谷石で作られた水槽があり、中には金魚。

金魚の水槽の脇に狭い扉があって、扉を開くと薄暗い玄関にチケットデスク。入館料は1989年の開館以来の500円(シニア400円)が10月1日から1,000円に改訂だそうで急いでやってきた次第。

2階

階段を上がると2階の応接室、狭くて暗い玄関から一気に広くて明るい応接室は視覚効果を狙ったもののようです。

六角形のテーブルと椅子は復元、窓際のソファは元からのものらしい。天井下にずらりと並ぶ小窓にはひとつずつ扉が付いてます。建物全体でこの小窓が120箇所もあるそうです。

フロアスタンドもライトのデザイン。窓辺の生け込みはモカラと利休草、モカラは人工交配のラン、利休草は別名ツルビャクブ。ガラスのブーケのような花留めがオシャレ。

館内のご案内パネルとHAZEL・A氏制作の1/150スケールのペーパークラフト、左端の大きな窓が現在地の2階です。

大きな窓辺に置かれたグラスにポトス。重要文化財指定書が掲示されていました。櫻正宗の八代目山邑太左衛門別邸として大正7年にフランク・ロイド・ライトが設計、ライトの弟子、遠藤新、南信の実施設計・施工管理により大正13年に竣工、進駐軍の接収を経て昭和22年に淀川製鋼所社長邸となり、昭和46年に建て替え計画浮上も撤回され保存が決まり、昭和49年に国の重要文化財指定、平成元年にヨドコウ迎賓館として一般公開。

この指定書は建物に加え庭園後を含め敷地全体が重要文化財に追加指定された2年前のもの。日本遺産「伊丹と灘五郷」の構成要素のひとつともなっています。

細長い窓。2階の奥の水屋は、おそらく応接室の来客をもてなすためのもの。

長い窓とよく似合うコンパクタベリー、さくらんぼのように見えるものの軽度の毒性があって食べることはできません。階段の踊り場の棚にはフォックスフェイス、タニワタリ(葉っぱ)、ケイトウ、ワレモコウ(紫の小さい花)のアレンジメント。

3階へ上がると山も含むジオラマ、重要文化財に追加指定された庭部分には池もあったようです。

3階

当初の設計に含まれていなかったものの山邑家の要望で作られた三間続きの和室、ジオラマの部屋に続く南側の座敷にスリッパを脱いで上がったところです。

和室の欄間は館内共通の四角形が4つ並んだ幾何学模様の緑青の吹いた飾り銅板、四つ葉のクローバーをモチーフにした意匠かと。

四角い花器と螺旋状に伸びたミリオンバンブー(万年竹)。水差しにはカンガルーポー、壁に映った影は遊園地の回転ブランコのように楽しげ。

オール電化で薪ではなく電気給湯器の浴室に、四つ葉のクローバーの銅板が1枚だけの90度回転した窓。

水切りにガラス棒が並べられた薄暗い洗面室の鏡に自分、ドライフラワーというよりも枯れた花の一輪挿しが妙にしっくり。

日の当たらない場所にはドライフラワー。

主寝室にはベッドではなく復元された大きな机。

窓から覗いた外壁、デコボコした石は栃木県産の大谷石と対照を為すセメントで作られた幾何学模様の飾り石。

主寝室に隣接し、主寝室と目が合う少し高い位置に作られた婦人室、ここにも四角いクローバー、棚には小さな花生け。

浴室脇には簡素な使用人室、その脇の階段を上ります。

4階

4階は暖炉のある食堂、天井は四角錐に三角形の小窓が並んでいます。

小磯良平がT嬢こと落合敏子さんを描いたのは神戸北野の小磯邸のこんな部屋だったのではないか、と想像してみます。

食堂の生け込みはルリタマアザミ(ヒゴタイの仲間の園芸品種)のドライフラワーと、フウセントウワタ、アルストロメリア(黄色い花)、キイチゴのアレンジメント。

オール電化の厨房、アメリカ製の冷蔵庫やドイツ製のオーブンなど高価な電化製品が並んでいたらしい。電力の供給は沿線の私鉄と直接契約していたとあり、当時の阪神急行電鉄(現、阪急)だったと思われます。

スリッパからサンダルに履き替えバルコニーへ。3階の屋上から2階の屋上へ抜けられるようになってます。正面はうっすらと和泉山脈、左端に芦屋浜シーサイドタウンが見えます。

芦屋川の対岸に鷹尾山272m、その向こうに日本のロッククライミング発祥の地、ロックガーデンがあります。反対側の丘の上にはいかにも芦屋な洋館、これぞマンションといった風情、サンタクロースが雀躍しそうな煙突です。こちらヨドコウ迎賓館もマンションという言葉本来の意味(大邸宅・豪邸・お屋敷)からすると間違いなくマンションです。

日本では、1950年代から安価な賃貸集合住宅がアパートと呼ばれていたため、それと区別すべく不動産業界で中高層集合住宅のことをおしなべてマンションと呼ばれますが適切じゃないです。英語だと分譲賃貸に関わらずフラットもしくはコンド(コンドミニアム)で、タワマンや億ションもマンションではありません。マンハッタンの10億円の集合住宅もマンションではなくコンドです。

ましてや自分ちのような集合住宅のワンルームをワンルームマンションと呼ぶのはとても恥ずかしく、I live in a single room manshion、と言えば、体育館のようなところに住んでるのかと誤解されてしまいそうです。今風の英語だと、I live in a studioが適切と思われますが、日本語で自分ちのスタジオと言えるのクリエイターだけかと。なので、アパートでも構わないのですが、いちおう「自分ちのビル」とごまかしています。

2階上のバルコニーから3階上のバルコニーへトンネルをくぐって戻ります。3階上のバルコニーへから見た4階、四角錐の天井は台形の枠で囲われているようです。

階段にあった電球と観葉植物、電球は市販品も、ソケット(白い円筒部分)、ソケットカバー(真鍮の立方体部分)、マホガニー製ベース(壁に固定する部分)はライト設計らしく、細部に至るこだわりがハンパない。よく見ると上掲の洗面室の照明も同じ形で大きさの違う電球とソケット、ソケットカバーです。

3階に戻ると、廊下には四つ葉のクローバー型の銅板の隙間から柔らかい日差し。細部まで目の行き届いた本物のマンション、フランク・ロイド・ライト設計の周囲の環境や立地の地形と一体になった「オーガニック・アーキテクチャ」、かなり念入りに丁寧にメンテナンスされていることも伝わって来て、何よりも写真に撮れた限り12箇所も美しいアレンジメントと花器でさりげなく飾られていた花が、オーガニック・アーキテクチャをぐっと引き立てていました。遠からず神戸北野の風見鶏の館も訪ねて見たいと思います。

ヨドコウ迎賓館を出てもう一箇所、ほど近い滴翠美術館を訪ねてみたものの休館中でした。芦屋川を出て夙川に着くと、大阪梅田へはあとの特急が先着とのアナウンス。西宮北口で乗り換えるより、夙川で乗り換えると特急に座れる可能性が高いと気付き乗り換え。正解でした。

新梅田食道街の「さしす」でランチ、なんばWalkではいつも百人くらいの行列もここではすぐ入れました。ノドグロ炙り握り2貫440円。カウンター越しのベトナム人らしき若い女性板さんの包丁さばきやテキパキした仕事ぶりに感心。