瑠璃絵の日

昨晩のNHKスペシャルで足立美術館の特集、「世界が認める日本一の日本庭園」とされる庭園のコンセプトや庭師さんたちの奮闘ぶりが紹介されていました。一年前、島根県安来市の足立美術館を訪ねています。2,300円もの入館料を払ったのに庭園内は散策できずガラス張りの屋内から額縁の絵のようにお庭を観賞するようになっていてガッカリしたのは記憶に新しいです。

アメリカの日本庭園専門雑誌によるShiosai Projectのランキングで20年連続で足立美術館が第1位になっているのですが、銀閣寺、智積院、青蓮院といった京都の名園がすっぽり抜けています。評価が確立している江戸時代の小堀遠州や夢窓疎石、明治の小川治兵衛、昭和の重森三玲のお庭よりなぜ高度成長期のお庭が毎年最上位なのか良く理解できないものの、美に対する感性は人それぞれ、それをランキングにすること自体に無理があるように感じます。

足立美術館との比較で紹介されていたのが20年連続第2位にランクされている桂離宮、指をくわえて外から眺めたことしかないのですが、地面が白砂と芝生の足立美術館に対してコケの地面の桂離宮のコケが剥がれたり、スギゴケが他の品種のコケに変わってしまったりと、いささか寂しい景色になっていました。テレビでは温暖化が原因としていたのですが、冬でも美しいスギゴケが園内の地面を覆っていたはずの吉城園が心配になって奈良公園へ向うことにしました。

奈良線にもドア脇に風除けの付いたリニューアル車が導入されていました。

車内吊りの「なら瑠璃絵」が気になりスマホでチェックすると、東大寺では今日も含め3日間、大仏殿夜間特別開扉、大仏殿観相窓が開かれると分かりました。

出かける前にマップにマーカーを付けておいたお店でランチ、お店の前を何度か通っていたものの、表の蝋細工食品サンプルがイマイチで通り過ぎていました。ずいぶん悩んでクチコミの評価の高かったカツ丼セット。

毎週1回は食べてる近所のカツ丼セットと比べてカツの厚さや大きさは全く遜色なく、タレはいつものお店よりずっと薄味なものの、接客も感じ良くて美味しいのですが、薄味のせいか、ボリュームがすごすぎるせいか完食できませんでした。ちなみに週1で食べてるカツ丼はこちら。やはりたまごの色がだいぶ違ってます。

お腹パンパン、歩かなければ。現在地は奈良市鍋屋町、かつて鍋を作る職人さんが多く集まっていた町と思われます。奈良は城下町ではないものの極めつけの門前町、東大寺や興福寺だけでもかなりの鍋需要があったはずです。交差点を左へ行くと奈良女子大、その向いのピンクの可愛い建物は旧鍋屋交番。

交差点をまっすぐ進むと「久家別館」、聞き覚えあるなと思ったら今しがたのカツ丼セットが久家さんです。Google Mapのクチコミに「お食い初めで仕出しを注文」とあり、奈良では老舗の仕出し屋さんも気軽に入れるお店と分かりました。メニューのうな丼1,120円にもかなり食指が動いたものの、安すぎるんちゃうとカツ丼にしたのですが、老舗仕出し屋さんのうな丼がまずかろうはずがなく、今度はうな丼にしたいと思います。

工事の始まった五重塔はまだ姿を隠していませんでした。左端は県立美術館、その隣は県庁、右側は文化会館です。

奈良バスターミナルの観光バスに修学旅行生は見当たらずインバウンドさんたちばかり、それもそのはず入試や学年末試験の2月に修学旅行は無いです。

四六時中人が並んでいて入ったことのない蕎麦屋さんの手前、川の脇の空き地にポツンと立っていたシカと目が合いました。周りは背の高い柵や有刺鉄線で囲われていてどうやって中へ入ったのか不思議です。

橋の欄干が片側だけ残っています。「うみすゐもん」と掘られているように読めるのですが、マップのマーカーは水門橋となってます。欄干の下の流れは吉城川とばかり思っていたのですが、吉城園と依水園の間を流れる吉城川と並行している吉城川支流の白蛇(はくだ)川と分かりました。

吉城園

吉城園です。マンリョウがコケの上に赤い実を散らしています。

スギゴケをどアップで。

スギゴケにマンリョウとシダ、緑色のバリエーションがとても美しいのですが、見たままに写真が再現できているかちょっと自信がありません。

フレッシュグリーンのスギゴケ。お気に入りの茶室のランタン。

苔の庭のほぼ全景です。ハゲているところはほとんどなく、地球温暖化の影響は無さげでひと安心、庭師さんたちの技倆の確かさが感じられます。

明るいグリーンのコケがぽっこり、たぶんシッポゴケです。

赤いつぼみはジンチョウゲ。

ずっしり感のあるボケの花。

モフモフのスギゴケです。

崖の下から見上げた茶室前のナンテン(?)の紅葉。

アセビが文字通り鈴なり。

小さな石碑に「正法院」と刻まれています。お寺の名前じゃなくて、吉城園は大正時代の実業家、正法院寛之氏邸だったことを証する石碑です、元々東大寺の塔頭摩尼珠院の跡地、正法院家の手を離れた後二転三転して、奈良県の所有となり平成4年から無料で一般公開されているそうです。

ぐるっと奈良公園

吉城園からまっすぐ北へ進むと戒壇院、塀の中の茶色い実はセンダン。

大仏池で両側から泳いできたカイツブリが鉢合わせしたところです。争うでもなくお互いを無視してすれ違いました。

長池から二月堂へ向かう谷、大仏ホタル生息地の細い流れに何かがチラリ。キセキレイが写ってました、

二月堂裏参道です。サワガニはまだ冬眠中。

お水取りに使う松明の竹が立掛けられていました。

石垣と柵の間の狭いところを左からきたシカファミリーと右からきたシカファミリーが鉢合わせ。どうなるのか見ていると、狭いところを歩いたままお互い避けあってすれ違いました。

親鹿の心配をよそに子鹿が道路に下りてしまいクルマの通行をブロックも、ドライバーさんが気長に待ってくれるのが奈良のいいところです。隣りにいたアメリカ人のおばさんがビューティフル、自分はキュート、で顔を見合わせました。

鷺池は水が抜かれ浚渫工事中。

泥の池底に足跡が点々と続いていました。鳥じゃないし、歩幅が狭くシカでもないです。カーブも左右が等間隔なので、工事か測量用の何かぽいのですが、それにしては人間の足跡がありません。

頭塔

マップで気になった「頭塔」をチェック。頭塔(ずとう)とは何なのか全く予備知識がないまま、鷺池から真南へ坂道を上ると破石町バス停裏になんじゃこりゃー。

南側に回り込むと木戸があったものの「史跡頭塔 見学の一時中止について」という貼り紙、再開時期は未定だそうな。

ピラミッドの裏側は森。

頭塔の先に酒蔵、店頭でワンカップを販売されています。3本セットとかで売られているのですが、3本は多いな、とお店の人と目が合いながらも通り過ぎて、どうしても気になって行ったり来たりして、1本だけでも買えますか、とやっぱり戻って来ると、酒蔵の奥さんらしきが事務所からすぐ出てきてくれました。

戻って来たのは頭塔について訊いてみたかったこともあります。ピラミッドなのか古墳なのか、やはり判然としなかったものの、「大和の酒」というブランド名が無いワンカップをゲット。奈良春日山酒造という酒蔵さんです。

帰ってからじっくりチェックしてみたところ、頭塔とは二月堂を創建、修二会の創始者とされる東大寺の僧、実忠により築かれた仏塔(パゴダ)と分かりました。瓦屋根の祠のそれぞれにレリーフの石仏が安置されていて、上の写真を拡大すると石仏が確認できます。発掘調査の後、北半分だけが奈良文化財研究所により復元されたそうです。そのため瓦屋根だけが新しいです。石仏は各面に11基ずつ合計44基設置されていたと推測され、ほぼ完全にピラミッドの形をしていたようです。

破石町バス停裏にあったホテルが解体されたことにより周囲からもよく見えるようになったそうですが、公開されていた時のストリートビューで一周できるようになっていることに気づきました。北側に休憩所もあります。名前も存在も知らなかった頭塔、エジプトじゃなくてマヤ文明のピラミッドによく似ています。ひょっとして平城京とマヤ文明で何らかの交流があったのかも、と想像してみます。国の史跡には指定されているものの、少なくとも重要文化財に指定されておかしくないかと。

瑜伽神社に出てきました。石段を登るのは今日はパス。

荒池の向こうに五重塔、日が指してきて中金堂の鴟尾がピカピカ光っていたのですが、写真ではそう見えず。

鴎外の池

大仏前の交差点の南西角の池、以前このあまりきれいじゃない池でカワセミを見つけて以来チェックポイントになってます。

カワセミは不在もカワラヒワがやってきました。

池の水は濁っていても池に流れ込んでいる水路の水はかなり綺麗です。

石で囲われた水路の先に石の桶があって水が溢れ出しています。よーく見ると桶の下からポコポコと水が湧き上がっているように見えます。どうやら湧水のようです。ここに湧水があるとの情報は見当たらないものの間違いかと。

鴎外の門の石碑が立っています。撮り忘れたのですが、石碑の脇に森鴎外が毎年秋に滞在していた帝室奈良博物館官舎の門が残されています。

石碑の銘板には「ただひとつ残されたこの門」とあるのですが、池から伸びた敷石の先に井戸の跡らしきも残っています。この井戸もその官舎のもので間違いなさそうです。さんざん調べてもこの池の名前が分からないのですが、とりあえず「鴎外の池」と呼ぶことにします。

なら瑠璃絵は6時から、まだ2時間以上あるのですが、やはり大仏殿観相窓の開扉を見てみたいので時間をつぶすことにしました。

大仏前の交差点から南大門への道はすごい人、人、人で腰が引けました。何とか通り抜けて大仏殿前駐車場を抜け、新しくできた裏木戸からもう一度吉城園。

ヤマガラには会えなかったもののナンテンの赤い葉っぱが美しい。スギゴケの上のセンリョウも足立美術館では会えないかと。

白いアセビも鈴なり。紫翠ホテルオープンに合わせて整備された吉城園西側の道、向こうに見えるバスが走っている大宮通は人がいっぱいもこの風情のある道には入って来ません。

まだ4時を回ったばかり。時間を潰せるお店を探すも奈良公園周辺には何も見つからず、近鉄奈良駅付近まで行ってまた戻って来ることにします。とにかく座りたかったので座れる飲み屋を見つけ、あまり考えずに入ったら安くないし、何より大勢いるスタッフさんに笑顔がなく、ぶすっとした顔を見ながら呑んでいてもしょうがないので早々に退出、タバコの吸えるドトールでコーヒーを飲んでいるウチに暗くなってきました。

なら瑠璃絵

東向商店街から奈良基督教会脇の坂道を登り、興福寺境内に入ると中金堂境内の地面に瑠璃色のLEDが敷き詰められていました。夜間拝観料500円とかでパス。五重塔と興福寺金堂はシルエットだけ。

南大門前は2時間前と較べて人通りは1/10もいないくらい。インバウンドさんたちは瑠璃絵開催を知らずに大阪や京都へ移動してしまったようです。

門前の土産屋店は閉店してしまったものの屋台は営業中、屋台の照明がLEDに変わり昔の夜店といささか雰囲気が違ってます。森奈良漬店は営業中。

南大門です。シカがいました。

南大門両側の仁王像はライトアップ。

普段は閉じられている中門が開放され、何と通常800円の拝観料が無料。

中門をくぐると青や緑でライトアップ、大仏殿の観相窓が開いていて大仏さんのお顔。観相窓が開くのは基本的に元旦の未明と万灯供養会の夜の2回だけだそうです。何やら重低音も鳴らされているのですが、のべつ幕なしじゃないのでOKです。

大仏殿の中は大仏さんの前だけで、通常と違って裏側へは回れなくなってました。

iPhoneじゃなくてZV-E10を取り出して露出を落として撮ってみました。辺りの暗さはこれくらいの感じです。ちょっと角度がずれると大仏さんのお顔が隠れてしまうので場所を選んで撮ってます。こちらが大仏さんを覗いているのか、大仏さんがこちらを見ているのか、聖武天皇や行基が大仏殿を建立した思いが伝わるような観相窓です。

iPhoneで夜空を撮ってみると肉眼よりたくさん星が写ってました。

大仏前の交差点から春日大社へも万灯篭が並んでます。万葉植物園がイルミネーションで飾られているそうですが、もう足がガクガクなのでパス。

興福寺から大宮通への通路もライトアップ。

南円堂の向こうに下弦の月、iPhoneで撮っているのですが、三日月部分だけを撮ることはできないようです。

北円堂の脇にシカたち。まだ起きているシカが多いです。スマホもテレビも無いので眠れないとさぞかし夜が長いことかと。

春日大社の瑠璃灯籠や正倉院の瑠璃杯に因むなら瑠璃絵、今日は会えなかったけどルリビタキもやってくる奈良公園、夏にはルリセンチコガネに会えるはず。瑠璃色が奈良のシンボルカラーであることは間違いないです。

28000歩、20.6km歩きました。