東洋陶磁美術館

ランチを兼ねて中之島で美術鑑賞と洒落込みます。中之島美術館では上村松園展(美人画)、中之島香雪美術館では河鍋暁斎(かわむらきょうさい、幕末明治の浮世絵師)展を開催中ですが、大阪市立東洋陶磁美術館へ。

7分30秒間隔の千日前線に乗ってなんばで長い乗り換え通路を歩き、8分間隔の四つ橋線で肥後橋に到着。6分間隔の谷町線、4分間隔の御堂筋線、万博輸送で最小2分30秒間隔で6連の中央線と比べると不便です。フェスティバルシティと京阪渡辺橋駅へ連絡する肥後橋駅4番出口は土佐堀川の下を歩いていることになります。

目的のお店はかなり大幅に値上げされていたのはやむを得ないとしても、どうも素材の臭みが残っていてちょっと残念なランチに。土佐堀川沿いの遊歩道で彫刻とバラを鑑賞、「広場 - 鳩のいる風景」という作品、背中を丸めたおっちゃんとハトの会話が聞こえてきます。

大同生命ビルと黄色いバラ、ピンクのバラの向こうの目新しいビルは竣工間近の淀屋橋ステーションワン。6月23日オープンだそうですが、ニュースリリースを見ると自分にはご縁がなさそうです。

淀屋橋から御堂筋の眺め、めったに来なくなったエリアで新鮮に感じます。

栴檀木橋(せんだんのきばし)から中央公会堂。

栴檀木橋下流に淀屋橋、上流に難波橋。

中央公会堂を正面から。茶色い建物が大阪市立東洋陶磁美術館です。陶磁器とか殆ど知識はなく、マイセンとかロイヤルコペンハーゲンとか西洋陶磁器はいくらか興味があったものの(ウェッジウッドとアメリカのレノックスが好きだったと思い出しました)、東洋陶磁器に特段の関心もないのですが、65歳以上大阪市民は無料に惹かれたという不純な動機でやってきた次第。

何と2,000円がタダに、他に例を見ないと思います。それとハマってしまった古代の青銅器に関連する展示が見つかるかもしれないという期待もあります。

moco

写真撮影OKと再確認。2階に上がると展示室入口にネコのイラスト、左右どっちのネコにしようかと迷っていたら真ん中のドアが開きました。

展示室1番は「青磁至宝」。

青磁象嵌同時宝相華唐草文水注(せいじぞうがんどうじほうそうげからくさもんすいちゅう、高麗・12世紀後半-13世紀前半)、真ん中に「ジャックと豆の木」のように蔦をよじ登る子どもが描かれた酒器で重要文化財 。作品毎にキャッチフレーズが記されていて鑑賞の参考になります。「童子は登るよ、どこまでも - So the boy keeps on Climbing」

国宝 飛青磁花生(とびせいじはないけ、元・14世紀 / 龍泉窯)、龍泉窯は浙江省龍泉市で盛んに青磁が生産された窯。鴻池家に伝来の品が安宅コレクションとなり住友グループを通じ大阪市に寄贈。本来酒器だったものが日本では花瓶として珍重されたらしい。キャッチフレーズは「完璧!」

「心に響く、青磁の色合い」重要文化財 青磁鳳凰耳花生(南宋・13世紀 / 龍泉窯)。

「オリーブグリーンに咲く牡丹」 重要文化財 青磁刻花牡丹唐草文瓶(北宋・11-12世紀 / 耀州窯)。耀州窯’(ようしゅうよう)は陜西省耀県銅川市付近にあったオリーブグリーンの釉薬で高く評価される窯。

入口に描かれていたネコはThe Museum of Oriental Ceramics, Osakaからmocoという名前と分かりました。

2番目の展示室へ向かう前に12番目の百鼻繚乱に入ってみます。花じゃなくて鼻です。

「百鼻繚乱」は清王朝の宮廷で大流行した嗅ぎタバコの文化と鼻煙壺(びえんこ)の紹介。

鼻煙壺の使い方が説明されています。要は火を使わない煙も出さないタバコの喫煙具で、自分は試したことはないものの、嗅ぎタバコはスナッフとも呼ばれ、今もJTの商品ラインナップにも入っていて、どうやら禁煙の場所でも喫煙できるようです。

透明地青被玻璃鯉鶴文鼻煙壺、青玻璃面取鼻煙壺、七宝花文鼻煙壺。トルコ石の鼻煙壺3点。いずれも19-20世紀の作品で5cm〜10cmほどの小さな壺、清朝最末期、ラストエンペラーの頃の作品と思われます。

翡翠、孔雀石、翡翠写玻璃の鼻煙壺。ため息がでるほど美しく可愛い。

鼻煙壺展示室の一角にモニターと孔の開けられたケース、ケースの中に小さな器が置かれていてその中にスイッチのようなものが。試しに孔から手を突っ込んでスイッチを触ってみるとモニターに茶碗が現れたものの、その後変化がありません。後から入ってきた外国人熟年カップルの旦那さんも孔に手を突っ込んでみたもの何ら変化がなく、それでもケースの中の器を動かしてみるとモニターの茶碗も動き出し、旦那さんとハハーンと目を見合わせました。

もういちど孔に手をつっこんで自分でも試してみました。小さな器の中のスイッチのようなものはモーションセンサーのようです。

戦後の十大総合商社のひとつ安宅産業の創業二代目だった安宅英一による美術品コレクションが、安宅産業の経営破綻し1977年に伊藤忠商事に吸収合併を経て、住友グループから大阪市へ寄贈され、その安宅コレクションを展示するために1982年に設立されたの当館。安宅産業のWikipediaに同社創業から東洋陶磁コレクションが寄贈されるまでの経緯がまるで城山三郎の企業小説を読むようにまとめられていました。

おっ、泉屋博古館の虎卣のポスターが貼られています。

2番目の展示室へ向かう途中のロビーに茶碗一点だけの展示。国宝 油滴天目茶碗(南宋時代・12-13世紀 / 建釜)です。建窯(けんよう)は福建省建陽県水吉鎮にあった名窯、天目茶碗は天目釉と呼ばれる鉄分を発色剤とする釉薬をかけて焼かれた茶碗。かつて豊臣秀次が所持し、西本願寺、京都三井家、若狭酒井家に伝来、口縁の金の覆輪は日本で付けられたものらしい。黒ですが青みがかって見え、小さな宇宙をイメージさせます。円形の鏡に置かれ全体を鑑賞でき、金の覆輪に反射したライティングという演出も素晴らしい。鼻煙壺展示室にあった体験展示は無くてもいいかと。

油滴天目以外何もないロビーに何故か鳥。

2番目の展示室は「翠色玲瓏 - 高麗青磁のきらめき」。翠色はカワセミの羽のような色、玲瓏は透き通るように美しいさま。

照明を落とした展示室の真ん中に青磁陽刻菊花文椀(高麗・12世紀)、さらに露出を落として撮ってみました。

翠色はカワセミ色ではあるもののヒスイも意味し、カワセミよりヒスイに近いです。

露出を落とす撮り方に味をしめたので、油滴天目に戻ってもう一枚。

青磁印花夔龍文方形香炉と青磁印花饕餮文鼎形香炉(高麗・12世紀)、やはりありました殷代の青銅器モチーフにした青磁。右手は饕餮の描かれた鼎ですが、紀元前11世紀のような迫力はありません。

青磁象嵌竹鶴文梅瓶(高麗・12世紀後半-13世紀前半)、キャッチフレーズは「竹鶴といえば酒」、朝ドラ「マッサン」のモデルでニッカウヰスキー創業者の本名が竹鶴政孝です。

3番目の白磁展示室の粉青鉄絵蓮池鳥魚文俵壺(朝鮮時代・15世紀後半-16世紀前半)、三国時代(3世紀頃)の陶器を源流とする俵形の酒壺、蓮池で魚を捕まえたカワセミが描かれています。

粉青鉄絵魚文深鉢(朝鮮時代・15世紀後半-16世紀前半)、描かれた魚は朝鮮半島ではなく中国大陸沿岸部に生息、広東省や台湾で大規模な養殖が行われている鱖魚(ケツギョ)。30cmほどの白身の魚、出張の時いただいたことがあるような気がします。

日本陶磁展示室は「陶魂無比」、アントニオ猪木のキャッチにかけているようです。この美術館の学芸員さんたちのダジャレ好きは間違いなさそう。センスいいダジャレです。

重要文化財の三彩壺(奈良時代・8世紀)、幕末に生駒郡で出土したと伝わる奈良三彩。

灰釉鎬文壺(南北朝時代・14世紀中葉 / 古瀬戸)、黄朽葉色の灰釉が古瀬戸の特色。

色絵相撲人形(江戸時代・1680年代頃 / 肥前有田焼)、柿右衛門様式の人形でヨーロッパへ輸出され戻ってきたものらしい。柿右衛門は肥前有田の陶芸家で代々酒井田柿右衛門の名が襲名され現在は16代目。江戸時代のまわしはずいぶん派手だったようです。

青花虎鵲文壺(朝鮮時代・18世紀後半)に描かれているのが当館のマスコットキャラのmocoちゃん。自分が虎なのか猫なのか自分でも分かっていないようです。

mocoちゃんが壺になるところをアニメで紹介しています。

中華瑰宝(ちゅうかかいほう)展示室、「瑰」はすぐれた、めずらしいの意。唐時代8世紀のぽっちゃり系婦女俑と7世紀の性格きつい系な感じの宮女俑。

重要文化財がいっぱい並んでいるのですがとりあえず2点、木葉天目茶碗(南宋時代・12-13世紀 / 吉州窯)と緑釉黒花牡丹文瓶(金時代・12世紀 / 磁州窯)。

中国歴代の青磁は自然採光展示室になってます。古来、青磁を見るには「秋の晴れた日の午前10時頃、北向きの部屋で障子一枚隔てたほどの日の光で」といわれるそうです。

自然採光の下、青磁管耳瓶と青磁杯(南宋〜元・13-14世紀)、時を経て形成される貫入(ひび割れ)を楽しむもののらしい。

「青磁の源流は、越窯にあり」青磁印文四耳壺(後漢・1-2世紀/越窯)。

殷時代をイメージさせる「子孫繁栄を願う壺上の楼閣」青磁神亭壺(呉〜西晋・3世紀/越窯)、どう見ても歪んでます。それに殷の青銅器と較べ全体に雑な感じがします。

青磁刻花花文爵杯(明・15-16世紀/景徳鎮窯)と青磁印花牡丹文爵杯(明・15-16世紀/龍泉窯)、古代の爵が明の時代にも好まれていたようです。

mocoのいるホールを上から。満足したので帰ります。

難波橋から大阪市立東洋陶磁美術館、ニューヨーク近代美術館をMoMAと呼ぶように、ここはmocoと呼んででいいでしょう。ウェブサイトはmoco.or.jpになってました。

難波橋のライオンの背中です。

大阪取引所のディーン・フジオカじゃなくて五代さん。

堺筋を堺筋本町まで歩いてきました。書店を訪ねることが殆どなくなって紀伊国屋さんもとんとご無沙汰です。船場センタービルでちょっといっぱいのつもりが月に一度の全館休業日。

APPENDIX

リニューアルオープンした天王寺公園の大阪市立美術館で日本国宝展開催中ですがかなりの混雑らしく、それに高齢者割引とかなく2,400円払って撮影禁止のようです。福岡市博物館所蔵の国宝 金印「漢委奴国王」もゴールデンウィークまで天王寺にやってきていたものの、福岡では撮影OKが大阪ではNGだったらしく、その理由がよく分かりません。

奈良国立博物館では超国宝展、京都国立博物館では「美のるつぼ」で風神雷神図屏風などの国宝を展示中。奇しくも国宝ラッシュの関西ですが、いずれも撮影NG。ルーブルや大英博物館、ニューヨークのMETなどは何十年も前でも基本的に撮影OKでした。夢洲の万博も概ねOKらしく、撮影NGの美術館博物館や寺社にも再考を求めたいところです。

その場で記憶できることは僅かです。写真撮影することで帰宅後もじっくりレビューすることができ、関連情報を調べることで展示されていた作品に対する理解がグンと深まるのは間違いないです。