コトラーのマーケティング3.0

Image of コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則

ビジネス書を読むのは久しぶりです。Web2.0にひっかけたタイトルは安直ですが、ソーシャルメディア時代の新法則というサブタイトルに惹かれました。

マーケティング1.0は製品中心のマーケティング、マーケティング2.0は消費者中心のマーケティング、マーケティング3.0は社会貢献を目指すマーケティングとなります。

第1部トレンド編では、有名なマズローの欲求の五段階説のピラミッドについて、晩年のマズローは自説を後悔し、あのピラミッドは逆さまにするべきだったと思っていた、というエピソードが紹介されています。

確かに、生理的欲求が満たされて初めて上位の欲求が生じるのであれば、世の中に自殺なんて起こらないはずと思います。

第2部戦略編では、先ごろ読んだフェイスブック若き天才の野望にも関連し、小さなアイデアを基にした、優れたミッションを掲げ、そのストーリーを語り、消費者に参加してもらい育てることで、金銭的結果は二義的なもの、といったあたりは自分の頭の中を整理してくれるようで、これはすごい本と出会ったと思いました。

その具体例としてイケア、ディズニー、ボディショップ、マイクロソフト、アップル、アマゾン、イーベイ、グールル、ウィキペディア、フェイスブック、ツィッターなどが取り上げられています。

消費者へのアプローチに続いて、社員に対して、チャネル(流通)に対して、株主に対して、と展開していくのですが、ちょっと雲行きがおかしくなってきます。だんだんIT系企業はあまり登場しなくなって、ソーシャルメディアとは情報だけでなく、あらゆるタイプのビジネスを包含するようになってきます。

数多くの企業の活動例が紹介されるものの、いずれもマスメディアやインターネット上の情報程度で、自ら取材したとはとても思えない程度の掘り下げの浅さです。

それとやたらに引用が多いです。「○○によると」という部分がすごく多いです。○○の部分が人名の長いカタカタなので、とても読みにくいです。

第三部の応用編では、社会文化的変化の創出、新興市場における起業家の創造、環境の持続可能性に対する取り組み、へと展開します。

この辺になってくると、好ましい企業の活動を無理やり、なんらかセグメントに分類するばかりで、その分類が何の意味を持つのか理解できなくなってきます。もうIT系企業は殆ど登場しなくなり、従来の大企業がどう改善されてきたか、といった視点で、また内容がいずれも表層的です。例えば環境問題への取り組みについて、さまざまな企業の活動が紹介されているだけです。

これらの活動が実際に地球にとって人類にとってどんな効果があるのか、という点についてはまだまだ議論の余地は大いにあるはずですが、一切触れられていません。

環境に配慮した製品やサービスの市場は4つのセグメントに細分化される。トレンドセッター(トレンドを決める人)、バリューシーカー(価値を求める人)、スタンダード・マッチャー(標準に合わせる人)、コーシャス・バイヤー(慎重な購入者)である。・・・各セグメントに対して異なるマーケティング・アプローチをとる必要がある。・・・バリューシーカーは保守的で実利的な消費者である。・・・マーケティング・コミュニケーションは、エコ効率というコンセプトを中心に構成されるべきである。・・・スタンダード・マッチャーはより保守的だ。このセグメントの関心を引くためには、グリーン製品が標準とみなされるためのクリティカル・マスに達する必要があり、・・・四つ目のセグメント、コーシャス・バイヤーは極めて懐疑的で、環境により配慮したビジネスがすでに常識になっていてもグリーン製品を買わない顧客である。このタイプの顧客に訴えかけて考えを変えさせようとすると,コストがかかりすぎる。

それは違うでしょ!と思わず本に対して声を出してしまいました。

環境問題の是非とかは別として、それが正しいと信じている限り、それを理解しようとしないからといって、そんな相手は始めから無視しましょうという態度は、社会を良くすることをマーケティングの骨子とする本書の趣旨自体から全く外れていると思います。

どうにも無責任な本と感じました。