土砂降りの枯山水

曇り後雨の予報ですが、予定通り東山へ。友人と待ち合わせ淀屋橋から5000系快速特急洛楽のカブリツキ。

滝井駅を通過、7000系の普通が土居駅に停車中なのが見えます。

滝井-土居間の駅間距離は400mですが、滝井駅ホーム端から土居駅ホーム端までは160mしかありません。ちなみに日本一短い隣接駅間はホームの端から端まで50m弱です。

木津川橋梁で8000系特急とすれ違い。このシーンは初めてでちょっと感動。洛楽のカブリツキでないと見れないかと。

無鄰菴

三条京阪前から超満員の5系統のバスに乗って乗車口から下ろしてもらい、岡崎動物園南側の疏水沿いを歩くと微妙に悪臭、動物園じゃなく疎水の水が原因と思われ気になります。

最初の目的地は無鄰菴、山県有朋別邸です。前栽の向こうに広い座敷、その縁側でお庭を眺める人たちが涼しげ。

平安神宮神苑や白河院庭園と同じ、七代目小川治兵衛作庭のお庭です。

山県有朋は歴史上の悪役、司馬史観でも参謀本部が実質的統帥権を得、戦前の日本を破滅の道へと導いてしまった張本人との評価となり、心から楽しめない気のするお庭ですが、愚直な権力者として再評価の向きもあるようです。

アメンボの水底の影を撮っていたらモミジの枯葉もアメンボ同様に葉っぱの影の周囲が光っていました。

4種類くらいのコケが混じっているようです。

お庭の一番奥、水の流れは琵琶湖疏水から引かれているそうですが、もちろんさっきのような悪臭は一切しません。

庭園の隅にある洋館、この二階で、明治36年4月、山県有朋、伊藤博文、桂太郎、小村寿太郎が集まって日露戦争直前の方針を決める無鄰菴会議が行われています。

暗殺された安倍晋三元首相は山県、伊藤、桂と同じ長州山口県ですが、明治の元勲たちよりずっと国民に愛された宰相だったことは間違いないかと。

若い庭師さんが作業中、もし人生をやり直せるとしたらなりたい職業です。いつまで持つか心配な青空。

無鄰菴を出ると格子窓と同化するまで錆びきったホーローの住居表示。フジイダイマルは今も元気に四条河原町で営業中ですが、Jフロントリテイリングの大丸とは全く無関係でロゴも違ってます。

三条神宮前交差点角のうどんやさんでランチ、営業時間が11:40〜15:00と21:00〜1:00、つまり夜はジモティのための飲み屋です。京都の飲食店は観光客向けとジモティ向けと極端に二分化されていて、コスパ(=満足度)が倍以上違うように思います。地元民向けのお店を探すのはなかなか大変ですが、当たると嬉しい。

青蓮院門跡

2つ目の目的地は青蓮院門跡、皇室との関わりが深い門跡寺院で粟田御所とも呼ばれています。

客殿白書院の華頂殿、無鄰菴同様、縁側に腰掛けのんびりお庭を眺められます。

鮮やかな襖絵、葉っぱが瑠璃色の蓮、ロックイベントプロデューサーで還暦から画家になった木村英輝画伯の作品。

いくつもの部屋に区切られた広い書院、襖絵は全部で60枚あるそうです。

風通しが良くて涼しく、友人曰くここで寝たいと、同意です。掲げられた額は百人一首ではなくて三十六歌仙です。

一隅を照らす、とは社会の一隅にいながら社会を照らす生き方をする、という最澄の言葉です。

華頂殿から小御所への渡廊下の衝立絵、ごく新しい作品と思われますが、狩衣や十二単の柄や牛車の装飾までかなり細部まで丁寧に美しく描きこまれています。さんざんググったものの作者も描かれた人物も不明ですが、何となくアニメ平家物語の平重盛の雰囲気があります。

宸殿の奥にも一隅を照らすの金屏風、華頂殿の屏風と同じ筆跡です。

華頂殿へ戻ってくると雨が降り出しました。広がるお庭は室町時代に相阿弥が作庭、明治時代にやはり7代目小川治兵衛の手で改修されています。

その中心となる龍心池の青い池面に跳ねる雨粒が美しい。

雨が止んだのでお庭を回ると、龍心池にメタリックな錦鯉。赤いオシベの白百合はカサブランカ種かと。

相阿弥の庭に隣接する苔庭は小堀遠州作庭と伝わる霧島の庭、苔に包まれた岩に、苔か種子植物かも分からない葉っぱが美しい。

ここの青もみじは葉っぱの密度が濃くて背が低く枝ぶりもよく、さらに裏山となる粟田山ともつながっていて圧巻、秋はとんでもない景色になりそうです。

中からは気づかなかったのですが宸殿は工事中、ひと目でそれと分かる左近の桜と右近の橘が並んでます。左端の大楠は京都市登録天然記念物。

アジサイは雨粒をのせてリフレッシュ。

境内の隅っこに鐘楼、ご自由にお撞き下さい、とあったので、撞かせてもらうと30秒以上響鳴していました。工事の音が入り込んでいるのがちょっと残念。

明日ありと思う心のあだ桜 夜半に嵐の吹かぬものかは

という親鸞聖人歌碑が建てられていました。親鸞が9歳で得度したのがここ青蓮院、源平合戦直前のことです。

バスに乗らず柳が涼し気なので白川沿いを歩き、一本橋で記念写真。水色の花はたぶんルリマツリ、白川の水はとてもキレイ、疎水から分流するところのフィルタはかなり強力なようです。

建仁寺

3つ目の目的は池泉回遊式庭園ではなく建仁寺の風神雷神図屏風。八坂神社前から花見小路に入ると、そこかしこに「私道での撮影禁止」という立て札。これが何を意味するものか、コロナ前の様子が文春オンラインに詳しく紹介されていました。マナーの悪いルールをわきまえない人が多いことは想像に難くないものの、遠回しに本音をちらりと出す「京都のぶぶづけ」のような、(それが京都の魅力のひとつともいえる)京都のいけずのスマートさがこの立て札には全く感じられません。通りの建物の殆どは新しくて京町家の趣は感じられず、その先にあるのは場外馬券売場、この通りに用がなくて建仁寺へ行くために通り抜けるだけの自分たちにとっては歩いていて楽しくない通りです。

建仁寺本坊に入るといきなり風神雷神図屏風、本物は京都国立博物館にありこれはレプリカですが、キャノンの最新技術でかなり高精細に再現されているものです。

本坊と小書院に囲まれた○△□乃庭、姫路のおでんケーキと○と△の順番が違ってますが、□は地で手前の井戸、○は水で中央の木、△は火で奥の方丈を指すのかと思いきや方丈側の白砂が微妙に三角に盛り上がっているそうです。

小書院と大書院に囲まれた潮音庭。細川護熙元首相による達磨、在任時のイメージと異なるとても力強い筆です。

安倍元首相の花は咲くのピアノ演奏を思い出し聞き直しました。多彩に一隅を照らすこの国の宰相たちです。

枯山水の方丈庭園、大雄苑です。突然土砂降りの雨、これだけ大粒の雨が写真で撮れたことは記憶にありません。

方丈の縁側の角に腰を下ろし雨を眺めます。ZV-E10で撮ってもやはり大粒の雨。

枯山水の白砂の上で枯れ葉が踊っています。雨で生命が注ぎ込まれたような枯山水、小さな生物を探すのが自分のお庭めぐりの目的なので、全く興味がなかった枯山水ですが、考えが変わりました。

スリッパを履いて地面の渡廊下を渡り法堂の天井画、双龍図。日本画家小泉淳作による2002年の筆。

法堂から戻るとものすごい雨、境内に人影もなくなっています。このまま降り続けると渡廊下が水に浸かり法堂が孤立してしまいそうです。

方丈に戻ると大雄苑の景色が見事。方丈の屋根から滴り落ちる雨が美しく、雨に濡れる枯山水を眺める縁側に並ぶ人たちがちっとも景色のじゃまになっていません。

雨雲レーダーでは雨はまだ15分くらい降り続きそうです。もう一度風神雷神図屏風、左手の雷神はどうしてもドリフを連想してしまいます。右手の風神は太田胃散じゃなくて改源ですね。

方丈の小さな中庭に石と一直線に並ぶ童地蔵。漸く雨が上がり、外に出ると暑気がすっかり抜けて快適、雨に濡れた生垣は何と新芽の生えたお茶です。

四条河原町

よほど花見小路が気に入らなかった様子の友人のリードで北門じゃなくて西門を出ます。

団栗通という通りに面した変なお店発見。ぎょうざ湯、サウナ・水風呂という看板と焼餃子10個680円という看板が並んでいます。脇に2階へ上がる階段があるものの、どうやら別のお店のようです。後で調べて分かったのですが、餃子やさんの奥がサウナになっているそうです。サウナで蒸し餃子、水風呂で水餃子、ではなく餃子は焼餃子のみのようですがリーズナブルでコスパも高そうです。入ってみればよかったです。

鴨川を渡ります。四条大橋の一つ南側の団栗橋です。調べてみると江戸時代に大きなどんぐりの木があったことに由来するそうですが、京都市街の8割をも焼き尽くした天明の大火の火元がこの付近だったことで知られるそうです(参照)。京都は調べれば調べるほど芋づる式に色んな興味深い情報が出てきます。

建仁寺のお手洗いが大雨で一時使用中止だったのでエディオンでお手洗いを借ります。ちょっと前までマルイ、自分の記憶では阪急百貨店だった場所です。3階フロアの目立つ場所に金ピカのスマホらしきが39万円とか表示されていてビックリ。よく見るとスマホじゃなくてウォークマンです。NW-WM1ZM2というハイエンドモデルで徹底的に音にこだわった、ハンディサイズの真空管アンプとでもいえそうなオーディオマニア向けの商品と分かりました。自分には理解できない世界ですが。

Google Mapで見つけたお店を目指して四条通を西へ、人が多いので錦小路へ入ると四条通よりはるかに人が多くてビックリ、歩けないくらいでマスクを掛け直します。錦市場の店頭をチェックすると(良い意味ではなく)これがこの値段?という商品も少なからず見受けられ、インバウンドさんがまだ戻ってきていなくてもそのまま修学旅行生や国内旅行者相手に以前と同じ商売をやっているようです。同じ手法だった黒門市場にはとても真似できない訳で、大阪にはない京都の持つパワーに圧倒されます。わずか1kmしか離れていないのに花見小路と全く逆の京都です。

Google Mapで見つけたお店に入ってみたものの、どうにも居心地が良くなさげで注文する前に退散、もうひとつ見つけたお店に向かいます。もうひとつのお店は開店15分前、もうお店を探すのも辛いので、近くの観光客向けっぽいお店でしばし時間を潰しました。

角打ちですが、物販の売場とは別入口の小部屋に立呑カウンター、ジモティ向けの寛げるお店です。ところがスマホを忘れてきたことに気付き、慌てて時間を潰させてもらった観光客向けっぽいお店にもどるとお店の人が自分を見ただけで携帯電話ですね、と持ってきてくれました。

角打ちに戻り、涼しげな切子グラスで伏見の坤滴、美味い。冷やしトマトが美味い店は間違いないというのも自分の持論です。ええ塩梅になって祇園四条からプレミアムカーで帰ったものの、自分にごく僅かでもまだ一隅を照らす天賦や機会があるのか、考え込んでしまいました。