葛城のみちのため池
街道をゆく第1巻第4章は葛城のみち。大和朝廷が成立する以前からの聚落が葛城の神々を今も祀る笛吹神社、雄略天皇や役小角と争った「日本における反骨の系譜の最古の存在」を祀る一言主神社、そして、政治を司っていた葛城氏に対し、同時代に祭祀を司り、5世紀末に葛城王朝滅亡後もこの地に残り後に鴨や賀茂、加茂の地名を京都や全国に遺した鴨氏ゆかりの高鴨神社を訪ねています。
3箇所一遍に回るにはクルマがないと厳しいので、今日は1箇所だけ、高鴨神社と周辺を歩いてみることにします。
磐城駅北側白鳳中学の裏、長尾村北端のあぜ道の辺りを車窓からみると、司馬先生の叙述のように、金剛山や二上山までは望めないものの、葛城山から鞍部の竹内峠への稜線は雄大です。
尺土駅ホームで葛城山の稜線をバックにさくらライナー。
尺土駅から新庄駅までのかぶりつき動画。
近鉄御所駅から奈良交通301系統、LEDの行先が撮れてませんが新宮駅行、有名な日本一長距離の路線バスです。ほぼ毎時1本ある御所から五條へのルートの内、1日3往復が、大和八木駅から新宮駅への301系統です。
車内は普通の路線バスよりちょっとゆったりした感じですが、これで6時間はキツそうです。
十津川村へ行ってみたいものの、10番目の風の森バス停で下車。新宮駅までこの先135もバス停があります。
バス停のちょっと手前が峠で向こうに大和盆地が広がっています。風の森峠と呼ばれるようです。
国道からちょっと坂道を上ると、うゎ、と声がでるような風景が広がりました。写真では雄大さが全然伝わっていません。
街道をゆくに「二上山のほうからここを通って和歌山へゆく新産業道路ができるそうで、その道路ができればいまの葛城山麓の古色はまったくなくなってしまうであろう。」とあります。どうやら昭和45年頃から南阪奈道路から京奈和道の計画があったようです。
南阪奈道路で上ノ太子駅周辺ののどかなぶどう畑の光景はすっかり台無しになってしまったものの、京奈和道のルートは葛城のみち沿いではなく、東側の丘陵をトンネルで貫くルートに変更され、葛城山麓の古色はそのまま残されたことは大いに幸運でした。道路建設のため、お国のためハンをついた葛城王朝末裔の一言主神社神主さんもさぞかし胸を撫で下ろしたはず。
道端の古池に写り込んだオオシオカラトンボのシルエット。もう1枚は別のオオシオカラトンボです。
カブトエビもいました。広ーい田んぼにポツンポツンとダイサギたち。
風の森を案内する碑文、神話と歴史を分けた峠で、今っぽい名前も江戸時代から風の森だそうです。
高鴨神社の鳥居が見えてきました。
手水舎の向こうに古池に張り出した舞台、舞台に立つと木々の向こうに葛城山。計算されつくされたレイアウトかと。池には錦鯉がパクパク。
石の鳥居の奥の石段を上がると拝殿、その奥に重要文化財の本殿が隠れています。拝殿前の砂利にウラギンシジミ。
マルガタゴミムシの一種です。苔に覆われた老樹、この迫力はまず自分の写真では伝わらないとは思うもののパチリ。
高い樹上に止まったコミスジ、この角度からだと見える翅は外側なのでホシミスジじゃなくてコミスジです。
境内に末社が多数、稲荷神社に続く石段にミニ伏見稲荷風の鳥居の列。
古池に倒れたこんだ老木、枯れておらずきれいに苔むし色んな命を育んでいるようです。
境内案内図の古池にはマガモらしきと錦鯉、舞台では巫女さんが舞ってます。
境内の隅の葛城の道歴史文化館の中にあるそば小舎、古池の畔に出られるようになっていて、まだガクアジサイがきれいな花を残していました。
高鴨神社で鴨汁そばと冷酒。冬には古池にたくさんカモが集まるそうです。
鴨神の村を里山歩き、金剛山麓の山襞に聚落が広がっていますが、金剛山の頂きは近すぎて見えません。振り返ると音羽三山、右手奥のピークは龍門岳904mかと。
小さな溜池が点在しています。葛城川が湾曲する内側に作られた小さな丸いため池、無粋な柵などに囲まれておらず、おそらく何百年も前と同じ姿ではないでしょうか。
民家のフェンスにイソヒヨドリ。もうヤマヒヨドリとでも分類した方がいいかも。
ほぼ隣接したちょっと大きめの池、土塀で囲まれています。小枝にショウジョウトンボが止まってくれました。
20cmくらいの魚がいっぱい泳いでます。ギンブナかと。
普段殆ど止まってくれないコシアキトンボが小枝に止まってくれました。コシアキトンボのアップは初めてのはず。オオシオカラトンボも。
草むらに止まってくれたのはダイミョウセセリ。緩やかな斜面に四角いため池、上述の2つの池より作られたのがずっと新しく思われます。
チョウトンボがいっぱい舞っていて、水草に白い花が咲いています。
イトトンボも発見。セスジイトトンボのようです。たぶん初見。
チョウトンボたちは全然止まってくれないので動画で。数秒ずつを繋ぎ合わせています。
田んぼの縁にトノサマガエルの幼体。まだしっぽが残ってます。
2cmくらいのかわいい奴らです。
漸く自動販売機発見、水ゲット。高鴨神社の近くに戻ってました。
なな何と、泉がありました。細井の森湧水とあり、地中からかなり勢いよく水が噴出しています。
動画で湧水、水の動きのせいか、ピントが合っていない感じですが、小さな小さな火山のように見えます。
泉を囲む岩にツチガエル。森というより、僅かな木立が細井の森と思われます。山裾じゃなくて、周囲は広い田んぼとわずかな住宅です。
田んぼの中を下りていくとケリが多数。田んぼの向こうにもため池。古代からこの地の稲作を支えてきたため池や泉です。
棚田というのは、平野がなくてしかなたく、山地を切り開いたもの、とばかり思っていたのですが、たぶん逆です。棚田であればため池や泉から自然と田んぼに水が流れます。平野だと川の流れから水を引く大規模な土木工事が必要です。
この森の池が鴨属の段丘田園をうるおし、その人口をやしない、さらにはこの水のほとりにその族神をまつって、水のまもりとしたのであろう。この森を含めた段丘の風景ばかりは、おそらく弥生のころから変わっていないにように思われた。
街道をゆく、葛城のみちのクロージングの一文です。弥生時代から変わっていないかもしれない葛城のため池は、かたち、大きさ、周りの様子、どれも個性的で、棲んでいる、やってくる小さななかまたちもさまざま、もっともっと見たくなりました。
実は来る前にマップで近くにすごく魅力的なため池を見つけたものの、その池が一番魅力的になる季節まで大切に取っておくことにしておいたのですが、その時には今日訪ねた池や今日見逃した池の様子を見るのもすごく楽しみになりました。季節を変えて何度も通うことになりそうな葛城のみちのため池です。
道の真ん中でヒバリちゃんがお食事中。
帰路はバスで北宇智駅最寄りの住川まで行って、橋本から高野線で帰るルートを取るつもりだったのですが、鴨神村のため池で遊びすぎました。
風の森のひとつ先、東佐味のバス停に着くと五条行は行ったばかり。北宇智駅まで歩くとどれくらいかかるか検索しようとしたら、新宮からの八木行のバスがやってきました。
考えずに乗り込みます。料金表を見ると新宮から風の森まで4750円。来る時のバスよりちょっと小ぶりでドア1箇所だけの観光バスタイプです。惜しむらくは十津川村への貴重な公共交通機関なのに乗客が殆どいないことです。がんばれ奈良交通。
といいつつ八木まで乗るより安いので近鉄御所駅で下車。あべの橋に着いて今日のプファーは天王寺駅北側のすえひろでオムライス。