C56のけむり

C56 160号機による北びわこ号のラストラン、すごい人出だろうとは簡単に想像が付き、止しておこうと思っていたものの、湖北にコウノトリが来ているとの情報もあり、やはり行ってみることにしました。

新快速先頭車は鉄分満載、なんかウキウキしてきます。近江八幡辺りから沿線ところどころに撮り鉄さんが並んでいます。EF65によるC56送り込み回送を狙う人たちです。

北びわこ1号とアマサギ

いつものように河毛駅じゃなくて台数が多い長浜で電チャリを借りてロケハン開始。姉川の南側で大きな空間が広がり山本山がもっこりと顔を出していました。ここで北びわこ1号を撮ることにします。

完全にフラットでけむりも蒸気も出さず静々と通過していきました。ここからもう少し北側に姉川を渡る築堤の勾配があるのに気づいたのは後の祭り。

虎姫周辺の田園地帯をゆっくりペダルを漕いでコウノトリがいないか探しながら湖北野鳥センターへ向かいます。

アマサギたちが田んぼの畦道に並んでいます。角度を変えるとかなり密集して見えます。

垂直方向から見るとモフモフです。しばらくして、一斉にトラクターに向かって飛び立ちました。

麦秋の伊吹山です。手前の黄金色はたこ焼きの素の小麦、奥の白いのはビールの素の大麦だと思います。

さっきとは別のアマサギたちの水鏡。

トラクターが近づいても全然ひるむ様子がありません。というかトラクターが大好きなようです。

こちらも水鏡の山本山。トンビは田んぼに下りて一休み中。

道の駅裏側の水田に映る、さっきとは違った角度からの山本山と遠くに伊吹山、いつ来ても気持ちのいい場所です。

営巣するカンムリカイツブリ

湖北野鳥センターの今日の鳥のリストは何とも地味な内容です。レンジャーさんに聞いてみたところコウノトリは2、3週間前に行ってしまったとのこと。

野鳥センターにも北びわこ号のポスター、さっき通った麦畑から北びわこ3号を狙ってみることにします。

水路に浮かんでいるのは…、カンムリカイツブリの後ろ姿です。

うわっ、間近にカンムリカイツブリの浮巣。よくみると卵のようなものが見えます。カンムリカイツブリは基本的に冬鳥のはずですが琵琶湖で営巣しているとはビックリ。

雌雄同色で雌雄どちらも抱卵するそうですが、冠羽が長めに見えるので、たぶん♂です。それにしてもノーブルな顔をしています。

別のカンムリカイツブリの巣ではパートナーが帰ってきて抱卵を交代すべく腰を上げたものの、卵らしきものは見当たりません。

まーーーーっすぐの道を走ります。道の真中で佇んでいたヒバリ君が道を開けてくれました。

麦秋の北びわこ3号

北びわこ3号通過20分ほど前に虎姫駅北側の麦畑に戻ってきました。既に先客の撮り鉄さんたちが数人。お互いじゃまにならない位置を気遣いながら、麦の穂の陰をC56が通るように三脚の脚を伸ばさずにカメラを道端にセット、動画を狙ってスタンバイ。すると上空にヘリが轟音響かせやってきて、意地悪いことに上空を旋回し始めました。ヘリのボディにはM新聞と大書されています。下で動画撮っている人もいっぱいいることは全く気にもかけないようです。この新聞社に鉄ちゃんのマナーとか語る資格はありません。

漸く頭上からヘリが離れたタイミングで北びわこ3号がやってきました。大麦と伊吹山とC56。鉄塔は虎御前山、北びわこ号俯瞰撮影ポイントのひとつですが、かなり木が茂っていて、登ってもポイントを探すのは難しそうです。それに3号だと逆光です。

上空からの不快な音が残るもののシュポシュポは録れてました。

赤いトラクターのところに戻ってくるとまだアマサギたちがいます。遠くからみるとトラクターが耕したばかりところに集まっていて、合点がいきました。トラクターが土を掘り返してくれるので労せずミミズを食べられる、ということです。留鳥のアオサギやダイサギより、渡り鳥のアマサギの方がそのことをよく知っているというのが不思議です。

長浜市酢、和歌山市坊主丁クラスのインパクトある地名です。長浜駅前の豊公園帰着。雲が厚くなってきています。30kmは走ったはずです。電池が減らないようにエコモードをメインに、平坦路では電源を切って走っていたので、かなりクタクタです。

自転車を返却して、ホワイト餃子とビールを目指し一目散に、関西圏唯一のホワイト餃子のお店へ、ところがなんとホワイト餃子は売り切れ、ホワイト餃子グループですが、ホワイト餃子専門店ではない、と分かりました。

さあどうしようと喉がカラッカラのまま駅周辺をウロウロしていたら、北びわこ号回送の時間になり、とりあえず撮っておきました。けむりは出ていないしこれだと後ろ向き走っているとは分かりません。

長浜駅の橋上駅舎はよく見るとレトロモダンで秀逸なデザインです。

もう一度ホワイト餃子のお店の方に行ってみると、こじゃれたカフェばかりと思っていた黒壁スクエアの入口付近に、自分にも違和感のないラーメン屋兼飲み屋を発見。この生中のプファーは最高でした。

C56返却回送

ええ塩梅になって播州赤穂行新快速で帰ります。うつらうつらしてふと目が覚めると窓の外にC56!能登川駅です。意識がハッキリしてきて次の近江八幡で下車。順光の上りホームに回ってみました。

12系客車5両は米原に残してきてEF65とC56だけのデュオ、かなりいい感じの質感で撮れました。

続く上りは高槻から快速の普通姫路行。普通列車でも最高速度130km/h、C56は75km/h、京都までのどこかで追い抜くはずです。ひと駅ずつチェックしていくと、草津駅ホームの京都寄りに人垣。

ホームのない2番線で待避していました。間に3番線があるので、人垣からでもみんながよく見える位置です。笑顔がカッコいい機関士さんの手元には花束が置かれています。

ナンバープレート、製造銘板、積空換算票、所属区札が並び、仕業札入には今日の仕業が表示されています。窓には子どもたちからプレゼントされたイラスト入りのメッセージがいっぱい。

2気筒シリンダーのピストンが前後し、クロスヘッドと主連棒で1400mm動輪を回します。惚れ惚れする機能美です。煙突の後ろは使用済み蒸気の排気管。

チェスの駒のような金色の2つの円筒はボイラーの安全弁、ふたつのドームの前方は砂箱、後方は蒸気溜め。蒸気溜めの後ろにあるのは蒸気発電機。

機関士さんがみんなに手を振ってC56 160号機は京都へ向け本線ラストラン、出発進行。けむりがもくもくと舞い上がります。

近くにいたスマホで撮影している4年生くらいの男の子が、ひとりごとか、それとも自分に話しかけてきてくれたのか、汽笛を鳴らしててくれるかな、と。たぶん鳴らしてくれるよ、と。

けむりの色が真っ黒に変わり上空へ勢いよく吹き上がります。

思いっきりながーい汽笛を鳴らしてくれました。子どもたちのありがとうの声。不覚にも涙が出てきました。

C56が去ってしまった草津駅ホームにはまだ甘いけむりの匂いが漂っています。

APPENDIX

自分はSLブーム世代です。函館本線C62重連の急行ニセコ、伯備線のD51三重連と並ぶ憧れの的が小海線のポニーことC56の牽く混合列車でした。中でもC56に惹かれ、中学生の頃、母親にねだって八ヶ岳高原号に乗せてもらいました。新宿発岡谷行の臨時夜行、霧ヶ峰高原号に併結された10系客車を含む旧型客車3両が小淵沢で切り離され、C56に牽かれ33‰の勾配を登り、国鉄最高地点の野辺山まで走る臨時列車、その日は確かC56 144号機でした。

C56 160号機は製造銘板にもあるように昭和14年製、C56のラストナンバー機です。昭和39年に上諏訪機関区へ転籍、小海線や飯山線、七尾線で活躍、昭和47年に梅小路蒸気機関車館の動態保存機となり、昭和55年頃から全国のイベント列車に引っ張り出されるようになり、平成7年から北びわこ号の本務機を務めてきました。

33歳で早くもリストラで関連イベント会社に出向も79歳になるまで無事故で勤め上げ、今日めでたく退職の日を迎えた次第です。退職後も嘱託として京都鉄道博物館のスチーム号を牽引することになるものの、もう高出力を上げることは許されず、もくもくと空高くけむりを上げることはもうないはずですが、ハッピーエンドだと思います。

さっきの4年生くらいの男の子の目にC56はどう写ったんでしょう。自分は蒸気機関車がイベントじゃなくて実際に貨客輸送に活躍していた頃を知ってはいます。でも、それは身近な世界ではなく、既に遠い憧れの世界でもありました。男の子が琵琶湖線沿線住民だとしたら、ひょっとして自分より蒸気機関車に接した回数が多いかもしれません。

電気じゃなくて蒸気のエネルギーでピストンを動かし動輪を回し、満員の客車を5両も引っ張るその実物に身近に接することができたのは、きかんしゃトーマスや新幹線からは感じ取ることのできない感動だったはずです。さっきのありがとうのひとことでそれは間違いなく、歳を重ねてもその感動を更に新しい世代の子どもたちに伝えていってくれそうに思います。その時、汽笛を鳴らしてくれるはずだよ、と答えていたおっちゃんのことも思い出してくれるかもしれません。

次回の北びわこ号からはD51 200号機が後を継いでくれます。軽快な走りのC56とは異なる力強い走りで魅せてくれるはずです。