「昭和電車少年」

ウルトラマンTVシリーズや帝都物語などで知られる映画監督、実相寺昭雄氏の昭和電車少年 (ちくま文庫 し 5-5)を読んでいます。

一昨年に69歳で亡くなられていますが、相当の鉄ちゃんだったようで、この本はそれなりに鉄ちゃんでないとついて行けないくらいマニアックです。前半は旅行雑誌等に寄稿された車両や路線について語った文章、後半は電車のエピソードを交えた自伝的文章になっています。

前半は好みの車両がかなり専門的に紹介されていて、鉄ちゃん以外には何を言っているのか分らないかも知れません。鉄ちゃんにとっても知らない車両も多く、ウェブで検索しながら見ないと理解できないくらいです。

著者の好みの名車として、小田急では初代ロマンスカーSSEより心打たれたのはその前の特急車1700系、人気の電気機関車EF58よりその前のEF57を機能美の極北と位置づけ、名鉄でもパノラマカーよりもその前の特急用車両で日本で最初の一般冷房車5500系だそうです。それぞれの車両名をウェブで検索しながら読むとかなり楽しめます。googleのイメージ検索を使うとかなりの確率で、この本に紹介されている昔の電車の写真が見つかりますよ!

嬉しくなったのが、二色浜に著者の親戚が住んでいたとかで、名車として南海11001系(旧型)が取り上げられていたことです。同じ11001系でも新型は湘南型風のデザインで、その高野線版21000系はズームカーとして知られています。今も大井川鉄道で活躍しており、この新型ももちろん捨てがたいのですが、11001系旧型はスタイルが全然異なり、いかにも昔風のデザインの電車ですが、それまでの緑一色の南海の車両とは一線を画すホワイトグリーンのボディに緑の帯、帽子のような白い屋根、なんとも涼しげな趣きの電車でした。

ふかふかのすわり心地のいいクロスシート、窓上にケース入りの照明なども装備したリッチな車両で、本来特急・急行用ですが、晩年は各駅停車にも使用されていたのを思い出します。二階から南海電車が見える自分の育った家で飽かず眺めていました。自分が鉄ちゃんとなる原点です。

実相寺氏もこんな感じで、自分の思い出を絡めて、それぞれの名車を語ってくれています。

大の都電マニアだった著者ですが、この本の最初のページに都電鬼子母神前駅の写真があります。その写真と同じところの今の写真がこれです。

都電鬼子母神前

本の写真ではこの空き地のところにうなぎやさんがあったようです。「沢井内科医院」の電柱看板はそのままです。うなぎやさんはたぶん地下鉄副都心線建設で立ち退きになってしまったのではと推測します。

昭和がどんどん遠くなって行くような気がします。