ロボットのマーケティング

ソフトバンクがロボット発売するそうな。

さすが孫さん、プレゼンテーションの最初の方はなかなかインパクトがあったのですが、プレゼンテーションの後半、タレントさんが登場してきたあたりからかなり冗長になってしまっているように、フランスのロボット開発会社に投資してきた結果を発表しただけ、という印象が強いです。個人的見解としては、たぶん99%失敗すると思います。

指や腕、首の動きからして自由度(=モーターの数)は30以上あると思われ、それが20万円以下というのは安いですが、二足歩行できないのは12時間連続稼働させるため、と言い訳していたのは言わずもがなです。掃除機ロボットのルンバでも自分で充電できます。センサーやAI(人工知能)的機能は別として、ロボットの物理的な機能としてかなり中途半端です。

そのフィジカルな面よりも、感情を表現できるロボットというところがこのPepper君のコンセプトだそうですが、相手の感情を認識し、感情の表現を返すということ自体、ロボットに限らずコンピュータでできるか、できないか、たぶんできない、というところです。感情のインプット、アウトプットにこだわるのであれば、ヒト型ロボットという形態となる必然性は全然ないです。ヒト型ロボットという形態を採ったとことは、それっぽく見せているだけです。

クラウドで情報を集積して確度を上げるということですが、そのためにはこのPepper君を何万台も販売しないとモノにならいのでは、とも思います。感情のやりとりを目指すのであれば、ソフトバンクお得意のスマホでやるべきです。


ソフトバンクは、社会のニーズを吸い上げてそれを実現することがとても上手い企業です。Yahoo BB!では安い固定料金で高速インターネットを利用したい、という社会のニーズを満たしてくれました。携帯電話キャリアとしても4Gという高速通信をリーズナブルな料金で、いち早く実現してくれたのはソフトバンク、iPhoneを購入しやすく利用しやすい価格で提供してくれたのもソフトバンクです。

ツイッター上の孫さんは、ユーザーの声に対して「それやりましょう!」の一声で、その都度、社内外をひっくり返し、ユーザーの声をひとつひとつ実現し、規模を大きくしてきた企業です。

でもロボットは違います。ユーザーのニーズは、鉄腕アトムのようなロボットが近くにいてくれたらいいな、という漠然としたニーズは昔からあるのですが、製造設備としてのロボットアームや災害救助用のロボットといった単一目的用の機械としてのロボットとは異なり、絞り込んで表現すると、ヒューマノイド型ロボットに対する社会のニーズは全く具体像をもっていません。ヒューマノイド型ロボットのマーケティングではあくまでサプライサイドがニーズをシードしていかなければならない世界です。このニーズをシードするというマーケティングをソフトバンクにできるのか、というと、甚だ疑問です。

ニーズをシードできる企業として際立った存在としてソニーがあります。ウォークマンがその一番の典型例です。そのソニーがペットロボット、アイボを販売していたのは記憶に新しいところです。発売当初結構売れたみたいですが、早晩飽きられてしまい、完全に失敗商品となりました。ペットとして、ロボット犬より、本物の犬の方が全然楽しくて、可愛いいことをユーザーが分かってしまったからです。プログラミングされた動作がかなりあったとしても本物の犬に適うはずがありません。

あのホンダもアシモというヒューマノイド型ロボットを作っていましたが、イベント用以上の普及品は開発できなかったようで、最近は名前も聞かなくなりました。

ソニーやホンダといったニーズをシードすることに極めて長けた企業ですら、うまく行きませんでした。ソフトバンクにそれができるのか、かなりハードルは高いと思います。


ロボットには個人的にかなり興味をもっていて、これまで関連したマーケティングに携わる機会も少なくありませんでした。ト◯ンスフォーマーとか、イマジナリーなロボットのマーケティングではそこそこ上手く行った経験はあるのですが、実際にコンピュータの機能を持っていたり、サーボモーターで関節を動かすといったフィジカルなロボットでは、残念ながら、これっぽっちも成功体験がありません。

このフィジカルなロボットとしてトミーがオムニボットを販売した時は大枚はたいて購入しました。1980年代の話しです(何と動いているところの動画を発見)。でも江戸時代の茶運び人形くらいの機能しかなく、すぐ飽きてしまいました。

サーボモーターをいっぱい使った二足歩行ロボットが結構ブームになったのはもう7~8年くらい前でしょうか。その頃、そのマーケティングにもいささか関わったのですが、結構話題となったRobo Oneとか二足歩行ロボットの競技会かとかもめっきり聞かれなくなりました。

10万円以上するロボットのキットを購入、二足歩行しても、次に逆立ちしても、ダンスしたり、センサーで自律機能を付けたりしても、プリインストールされたプログラムの先に行こうとすると、C言語の習得や、三角関数とか数学的なセンスも求められるようになり、多くのユーザーはめげてしまったはずです。

たぶんこれまでに商品化されたロボット関連商品でベストは間違いなくLego Mindstormsだったと思います。自分もかなりハマって2セットも購入してしまいました。今も押入れ深く探せば出てくるはずですが、写真はWikipediaから借用してきたもので、初代MindstormsのCPU部分です。これにレゴのピースとなったモーターやセンサー、ギア等々を取り付けてロボットを作っていくキットです。光センサーやモーションセンサーとかのピースで自律機能を付けることもできます。

二足歩行ロボットを作ったり、ロボットアームを作ったり、地面のラインをなぞって走る自律型の自動車を作ったり、作っては壊して新しいチャレンジができました。

初代はWindowsXPにも対応できなくてお蔵入りしてしまったと記憶するのですが、今も3代目Mindstorms EV3が細々と販売されているようで、機会があればまたチャレンジしてみたいです。

でもMindstormsはロボットを作るための創造力と想像力を刺激するもので、できあがったロボットはそれほど面白いものではありませんでした。エンタテインメント用途の完成品のロボットには多くのトイ/ホビーメーカー、家電メーカー、機械メーカーなどが取り組んで商品化されたものも少なくありません。その中にはアイボもありますが、結果的どれひとつとして、際立った成功事例はないかと思います。

Google、Apple、Amazonというアメリカ御三家もロボット関連企業の買収に執心しているようですが、基本的に危険作業や単純作業の代替が主な目的のようです(参考記事)。ソフトバンクのヒューマノイド型ロボットはやはり的外れに思えます。

ただ、ソフトバンクという企業のもうひとつの魅力は「実行力」であり、ここまでぶちあげ、巨額の投資するからには、ロボットのマーケティングとして、次につながる何らかの成功をもたらしてくれるのではないか、という期待は残ります。99%失敗するとは思いますが、私の経験や推測を覆す1%を実現させてくれるのではないか、というのが孫さんへの期待であり、よくぞロボットにチャレンジしてくれました、との敬意も持つものです。