GNH Gross National Happiness

チベット、オリンピックで大変なことになってしまっていますが、その問題の根源、解決策はあるのか、を考えさせてくれる一冊、ブータンに魅せられて (今枝 由郎、岩波新書)を読みました。

ブータンはインドと中国に挟まれた、チベット人の小さな独立国家です。今問題のチベットが独立したとしたら、こんな国ができていただろうと思わせる国のお話しです。ブータンは17世紀からの歴史があるものの、20世紀末まで殆ど鎖国状態を守り、前国王の指導で、近年開国、外国人の受け入れや近代化を進める中も、ある意味日本の明治維新も反面教師に、自ら固有の文化やその素晴らしい環境を必死に大切に守ろうとしている小さな国です。

この本は、長年この国に憧れ、苦労の末、同国の国立図書館の顧問として迎えられ10年以上滞在してきたチベット学者の著者の、ブータン論です。

最も分かり易い表現が、一般的な国単位の経済力の指標であるGNPやGDPに対して、ブータン前国王のGNH(Gross National Happiness)という考え方です。何が個々人の幸せなのかとなると、かなり抽象的な指標ですが、誰も反論できない目標値だと思います。

「豊かになるものから豊かになればいい」という鄧小平の言葉の元、汚職や環境汚染、日本とは比べ物にならない格差社会の中国に対し、巨額の観光収益を放棄しても、ヒマラヤの高峰は信仰の対象であり、その登山を認めず、道路一つ作るにもその真の必要性を地元住民と協議し決めているブータンを比較すると、国民皆の幸せが自分の幸せというブータン的(=チベット人的)考え方が真に共産主義な故、ハンバな共産主義の下、経済最優先の中国がチベットを認められなくなっているのではないかと考えてしまいます。

中国だけでなく、年金や後期高齢者保険、道路特定財源とか、今の日本政府がGNHという視点は全く持っていないことは明らかで、ロハスとかスローライフとか見直さなければならなくなっている日本人にとっても、中国に限らず、見逃してはならない視点だと思います。

この本は全般的にブータン礼賛で終始一貫しており、ほんまかいな、ブータンには何も社会問題はないのか、と思わせる部分もあるのですが、ブータンにも南部のネパール人難民という国際問題を抱え込んでおり、その辺も著者の視点で触れられており、一応安心して読むことができました。

自分自身の生き方も含めて、ずいぶん考えさせられる一冊です。 中国人の大事な友人も少なくない自分ですが、今の中国の様子はやはり異常と感じざるを得ません。今日の善光寺の勇気ある決断を見て、自分もこの書評を書くことで自分なりの考えを書かねばと思った次第です。

水泳のオリンピックの予選会とテレビでやっていても、シラケてしまったように感じる人は少なくないと思います。福原愛ちゃんが心配です・・・