鷺とり

枝雀さんの名演で知られる、アホが鳥を捕まえてひと稼ぎを算段するお噺の実況見分です。

スズメを捕まえようと味醂のしぼりかすでできた伊丹の名物「こぼれ梅」をバラマキ、酔っぱらったところに南京豆をバラマキ、南京豆を枕にぐっすり眠ったスズメをほうきとチリトリでひとからげに捕まえようという算段です。がっ、南京豆をバラまいたとことでスズメはビックリして逃げてしまって大失敗。

「こぼれ梅」って食べたことがないのですが、伊丹の酒蔵さんで販売されていました。

次に狙ったのがウグイス。指の先から二の腕にかけて洗濯用の糊と炭を混ぜたものを塗りたくり、梅の古木の出来上がりです。天窓へ梯子をかけて、ニュウっと手を伸ばして、ウグイスが止まるのを待ちます。朝早くからジィーっと我慢して、漸くウグイスが止まってくれたものの、そのころには天日にさらされた手はガチガチ、ウグイスは捕まえられず、拍子に梯子から転落して大失敗。

自分はそこまでアホができないので写真でガマン。スズメは大阪南港、ウグイスは奈良市富雄で撮影、ウグイスの脚、細い!※3/11訂正:ウグイスじゃなくて、明らかにメジロですねm(_ _)m


この損を取り返そうと狙ったのがサギ。田んぼで、ドジョウなんかをコツコツ、コツコツっとやってるサギに向かって、離れたところから大きな声でサァギィと声をかけます。サギは「誰かボクを読んでるな、せやけど遠くやなぁ」と田んぼをつつき続けます。

今度はもうちょっと近づいて、ちょっと小さな声でサァギィと声をかけます。サギは「やっぱりボクを呼んでるみたいやなぁ、せやけどまだ遠いなぁ」とコツコツっと田んぼをつつき続けます。

さらに近づいて、もっと小さな声でサァギィと声をかけます。サギは「やっぱりボクを呼んでるなぁ、せやけどやっぱり遠くやなぁ」と安心したところを、ワッと捕まえるというアイデアです。

写真は大阪南港野鳥園です。ぜんぜん近づけなかったので声をかけるのはあきらめました。


この男、萩で有名な北野の円頓寺の池にサギがいっぱいいると教えてもらい円頓寺に向かいます。

円頓寺は「えんとんじ」じゃなくて「えんどうじ」と読みます。今も北野、つまり梅田のほぼど真ん中にあります。曽根崎東交差点の南東側、梅田地下街、泉の広場から階段を上がってスグのところです。

境内は思いの外小さく、季節が違うので萩の名所かどうかはわかりませんが、境内に池があるとは思えません。文久三年の古地図にも載っていました。やはりそんな大きなお寺には見えませんが、まぁ文久三年よりもっと前のこと、と受け取っておきましょう。

日の暮れる頃を見計らってアホは円頓寺の塀にハシゴをかけて池に忍び込むと、サギがぎょうさん、寝ています。その寝ているサギを帯に挟み込ん行くのですが、適当にやめればいいものを腰の周りにビーッシリとサギを括りつけて、戻ろうとしたら、塀にかけてあったハシゴがなくなっています。

どうやって降りればいいのか迷っているウチにお日ぃさんがが昇り始め、帯に挟んだサギたちが目を覚まし始めます。

あれぇ、寝ていたはずが人間に捕まってるやないか、どないしょう、サギエモン、サギゴロウ、みんな起きんかい!

ほなら皆一斉にバタバタっと羽ばくんやぞ!

ひぃふのみっつ、バタバタ、バタバタ、バタバタ・・・、かわいそうにこの男、サギを腰の周りに挟んだまま沖天高く放り出されます。

えらぃこっちゃ~、と前を見ると大きな鉄の棒が・・・、ようやっとそれにつかまって、腰のサギを解き放ちます。

ここはどこだ、生駒の山が見えるからまだ大阪だ、あ~良かった、助かった。

石の鳥居があるやないか、あっ、天王寺さんや、何や、ウチからスグ近くやないか、帰る手間が省けた。どうやらこの男、自分と同じ上町台地の住人のようです。

あれ~?天王寺さんやとすると肝心の五重塔がないやないか。

あれが亀の池、あれが金堂、本堂、ということは・・・

この男、かわいそうに四天王寺さんの五重塔の九輪に掴まっていた、つまり、ズームレンズなしには見ることのできない天女を目の前で見ていた訳です。

首を人間の帯に挟まれたサギがどうやって飛んだのか、それも何羽も一斉に、その様子をビジュアルにイメージするのは難しいです。それにサギがぎょうさんいるのって見たことがありません。サギっていつもひとりで田んぼをコツコツっとやってるか、ひとりぼーっと立ってるか、空を飛んでる時もひとりです。

でも、言葉の遊びとすると空想が膨らみ、メチャ面白いです。言葉でしか表現できないシュールな、落語だけの世界が存分に楽しめる「鷺とり」です。

ここまで書いてはたと気が付きました。言葉でしか表現できない世界と、萩の円頓寺や四天王寺の五重塔の九輪、サギのしぐさといったリアルな世界の混じり合ってるこのお噺、枝雀さんの真骨頂「緊張と緩和」そのものでは。

ぜひ枝雀さんの録音を探して聴いて確認してみてください。

コツコツ、コツコツ、っとやってます。