俄 浪華遊侠伝

どつく、けったいな、ほたえる…、他の司馬作品ではあまり見かけない言葉がいっぱいでてきます。「どつく」は「殴る」、「けったいな」は「奇妙な」と分かるかと思いますが、「ほたえる」は「騒ぐ」です。昔よく「ほたえたらあかん!」とか叱られる時に聞かされた言葉です。

清水の次郎長や黒駒の勝蔵と同じ時代の侠客、明石屋万吉の一代記ですが、司馬作品でもあまり知名度は高くないですね。これでもかというくらい波乱万丈の一生、義理に筋を通すことに徹底的にこだわる生き方、考える前に動いてしまう突拍子も無い行動、個性豊かな嫁はんや子分たち、そして政治や社会に利用され振り回される…、どれをとっても痛快な任侠伝で、高倉健や鶴田浩二あたりで、高度成長時代に映画化されていたとしてもおかしくないはずだと思うのですが、「商売人の町、大阪」という先入観が任侠伝とマッチしないのではという先入観のせいかな、としか思えないです。

京都から逃げ、但馬の出石に隠れていた桂小五郎を助け長州へ送り出したり、薩長を助ける一方で、鳥羽伏見の戦いでは、幕府側で戦うことになってボロボロに負けてしまったり、旗幟鮮明にはならないのですが、そこが頼まれたらもう断れないこの明石屋万吉の生き方そのものでした。

「商売人の町、大阪の侠客」であるにも関わらず万吉にはお金への執着心が殆どありません。もっと多くの人たちにこの「俄」を読んでもらって、たこ焼や吉本だけではない大阪を味わって欲しいと思います。上下巻で千ページほどありますが、1週間で読んでしまいますよ。

俄 浪華遊侠伝