花神

 

適塾の記事を書いたのが4月の始めなので、3ヶ月以上かけて、じっくり楽しませてもらいました。花神ということばは下巻のそれも最後の方になって漸くでてきます。花神とは花咲か爺さんのことで、つまり村田蔵六(大村益次郎)という人は、幕末の維新の花を咲かせた人ということです。

吉田松陰や佐久間象山らが維新の根源となるコンセプトを作り出し、次に、坂本龍馬や西郷隆盛、高杉晋作らがその戦略を構築、そしてそれを技術として実践したのが村田蔵六、ということになります。

情に流されることの全くないリアリストぶりは、適塾の頃から生を終えるまでずっと徹底しており、上中下三巻に余すところなく表現されています。そのため、理解者からも嫌われることが多かったようで、勝海舟や福沢諭吉とも仲はよくなかったようです。

そういえば、司馬先生の作品に勝や福沢が主人公の作品ってなかったはずで、それが不思議でもあったのですが、勝や福沢はこれだけの歴史上の主人公であるにもかかわらず、意外と司馬先生自身の好みじゃなかったのかもと感じます。この辺もっと突っ込んでみると面白い司馬遼太郎論になりそうです。

一方そんな蔵六を一番買っていたのが桂小五郎(木戸孝允)で、本書で描かれる桂はとても魅力的です。他人の気持ちを斟酌しない蔵六の欠陥を徹底的にフォローし維新を成し遂げた功績は大きく、何事もエンジニアとかアーティストだけでは全て解決するものではなく、マーケターとかポリティシャンとかパトロンとかとのコンビネーションで初めて事が成るということに改めて気付かされます。

もうひとりとても魅力的な登場人物が楠本イネ(シーボルトの娘で日本で最初の女医)です。この堅物を主人公にした長い物語が、さわやかなきらびやかさをまといます。

自宅から自転車で5分程のところに、兵部大輔大村益次郎卿殉難報告之碑というのがあります。殉難したのは京都ですが、一命を取りとめ大阪の鈴木町大阪仮病院に入院、約2ヶ月後に亡くなっています。この大阪仮病院(後の阪大病院)があったところが今の法円坂2丁目のこの場所だったようです。

とびっきりの美人のイネさん(画像検索すると見つかります)が惚れたにしては、どうにも醜男だったようです。昔の大河ドラマで中村梅之助さんが蔵六を演じていたのをうっすら覚えています。かなりはまり役だったと思います。

実はこの本は再読です。たぶん20代だったと思いますが、記憶が殆どありません。「龍馬がゆく」は、結構覚えているのに「花神」は思い出せません。エンジニアの人生に対する見方が、マーケティングをやっていた20代の自分と、ウェブ屋をやっている今の自分で全然違っているということに気づきました。

花神