花の回廊 流転の海第5部

花の回廊―流転の海〈第5部〉 (新潮文庫

流転の海シリーズの第5部、自分が生まれた頃のお話です。著者自身の自伝でもあり、もう25年にもわたり書き続けられているライフワークだそうですが、第1部が終戦直後から始まっているので、10年の物語を25年かけて丁寧に書き続けられていることになります。前編を読んだのがいつ頃か、もう思い出せないのですが、読むうちに少しずつ思い出してきました。

著者自身である伸人は10歳、前編の富山での生活を終え、尼崎の叔母宅のある異様な構造のボロアパート、たぶんこのアパートの廊下が題名の花の回廊の意味のようですが、そこに住む在日韓国・朝鮮人の貧しいが個性豊かな人々に囲まれ、ひ弱な伸人はたくましさを身につけていきます。

父親、松坂熊吾は、ずいぶん丸くなって、強さと優しさを兼ね備えたとても魅力的な人物になっています。成功と失敗を繰り返してきた熊吾が、漸く駐車場の管理人として安定した生活を始めるに至るまでの第5部です。

かなりの部分は事実に基づいているようです。女学校の跡地が駐車場になるのですが、現在の好文学園のようです。Wikipediaでみると火事で移転が早まったことも作品の記述と一致しています。

著者は熱心な学会員だそうで、その広報的な小説と捉える向きもあるようで、自分も創価学会はどうも、というクチですが、そんなことに関係なく、感動を与えてくれる文学であることには間違いないと思います。

立ちんぼの売春婦が通りで立っている一方、洗濯機を買ったりするシーンが登場するなど、高度成長期の始まりであった自分の生まれた時代を、肌で感じさせてくれる一編でもあります。