drupal.orgのアップグレード

drupal.orgがDrupal6からDrupla7にアップグレードされました。日本時間11月1日午前0時くらいからサイトがクローズされ作業開始、予定通り24時間以内に移行作業を完了しサイトが再開されています。

drupal.orgはオープンソースCMS、Drupalのオフィシャルサイトで、ソースファイルや関連モジュールの配布、インストールや活用方法に関するドキュメンテーション、制作事例の紹介等がびっしり詰まっている他、世界中の開発者や利用者によるコミュニティ機能を兼ね備えています。

わからないことがあると1日に何度もチェックする自分にとっては毎日欠かせないウェブサイトです。そして分からないことがあるとかなりの確率で解決策が見つかるウェブサイトでもあります。

そのコンテンツ数は200万件以上あります。そのすべてがDrupal6からDrupal7にコンバートされた訳です。Drupal7が正式リリースされたのが2011年の1月、この間、Drupal7が普及するにも関わらず、その本家本元は2年以上、Drupal6で運用し続けられていたことは、そのアップグレードの難しさの証左といえるでしょう。

Drupalのマイナーバージョンアップ(例:7.21→7.22)はセキュティアップデートや小規模な機能の追加ですが、メジャーバージョンアップ(アップグレード、例:6.x→7.x)は、システムの改善ということだけでなく、根本的な開発コンセプトすら異なるもので、殆ど別のCMSといっていいくらいです。

DrupalはCMSであると同時にウェブアプリケーション開発のためのフレームワークとしての側面があり、ブログ、SNS、eコマース、グループウェア、といった個々のCMSとしての機能を実現するだけでなく、あらたなアプリケーション開発の基盤になっています。CMSから開発フレームワークまで一手に引き受けているからこそ、プログラミングに経験の無い人から高度なプログラミング知識を持つ人まで実に幅広いユーザーをカバーできるシステムなっている訳です。

メジャーバージョンアップではデータベースの構造や基本的なAPIの構造も進化し変化します。この変化に既存の大量のコンテンツに対応させたのが今回のアップグレード作業です。適当にURLを叩いてみたら/node/500の2002年のコンテンツもきっちり残されていました。

アップグレード作業は有志の開発者たちによって、長期間に渡り周到な移行作業のための準備や検証が行われてきました。DrupalのファウンダーはDries Buytaerttというベルギー人ですが、Driesは依然強いリーダーシップを持つものの、Drupal Coreの開発はDrupalのグローバルなコミュニティで行われています。これらの開発者の殆どがボランティアのはずです。


drupal.orgをwhoisで調べてみるとベルギーで登録されています。でもベルギーが活動拠点かというとそうじゃなくて、結局のところ物理的にはアメリカでの開発作業が一番多いと思われますが、地理的なロケーションにこだわる意味は無さそうです。長年Drupalのお世話になっていながら、未だに、実際にDrupalの開発やセキュティ管理、サードパーティモジュールの承認といった作業がどのように行われているか、実態は十分理解できていないのですが、グローバルでバーチャルなコミュニティがその拠点という理解は合っていると思います。

一方、毎年2回(アメリカとヨーロッパで各1回)開催されるDrupalconというリアルなミーティングが開催されており、毎回、世界中から3000人ほどの参加者(=Drupalの開発者やユーザー)が集まります。至近では9月にチェコのプラハで開催されています。(参加された紀野惠さんのレポート

Drupalcomではさまざまな基調講演やイベントの他、多くの分科会のような特定の目的のためのグループが形成されており、drupal.orgの管理もそのようなグループのひとつなのではと理解しています。そこに集まった有志たちの途方も無い知力と努力の結果、今回のアップグレードが行われた訳です。

意外かもしれませんが、ウェブサイトの制作というのは一から制作する場合とリニューアルする場合とでは、圧倒的にリニューアルの方が大変です。もちろん元になるシステムの規模や複雑さにもよりますが、引き継がねばならないコンテンツを古いシステムから新しいシステムに置き換える作業は、古いシステムやデータベースのバックアップ→古いシステムの解析→開発テスト環境の構築→新しいシステムへ置き換えるための開発→試行→検証、という流れを繰り返すことになります。

自分が作ったものであればまだしも他人様の作ったシステムであれば、古いシステムの解析の部分はかなりの負担になります。

drupal.orgのアップグレードはバーチャル空間での多くの人たちによる共同作業であり、最適な分担を行い、進捗状況を一元的に管理し進められてきたはずです。それがひとつの企業ではなく、ひとつのバーチャルなボランティアグループで実施されたことを考えると、これまでの社会には存在していなかった途方も無い、新しい形態の力を感じます。

世界中のCMSウェブサイトの2%はDrupalで制作されていますホワイトハウスルーブル美術館も国内では国会図書館のウェブサイトもDrupalです。残念ながらさまざまな経緯があって、国内ではイマイチ認知度が低く、WordPressのようには活用されていないのが実情です。しかしながら遠からず、必ず国内でもブレークするのは間違いありません。

自分は今回のアップグレード作業に参加できるような知識は持ち合わせないのですが、せいぜいDrupalの素晴らしさを喧伝し、その便利さ、奥の深さを知ってもらえる一翼の羽の一枚の役割でも果たすことができれば、と考えているところです。

Drupal5の頃からもう5年近くDrupalのお世話になってきました。ここにきて漸く国内でもDrupalのコミュニティが広がってきており、リアルな場でも、同士の皆さんと共通の話題で盛り上がれる機会が増えてきました。上述の紀野さんや仲間の皆さんと、いずれは日本でのDrupalcon開催を夢見ているところです。


今回のdrupal.orgのリニューアルはDrupal6→Drupal7へのアップグレードだけで、見た目の変更は殆どありません。HTML5ですらなくXHTMLのままで、レスポンシブデザインにもなっていません。(ひとつ気付いた大きな違いはいつの間にかサイト全体がSSL化されていました。)

しかしながら、今回のアップグレードで移行のためのノウハウが相当蓄積されたはずであり、来年年明けから春くらいまでには正式版リリースが見込まれるDrupal8には早い時点で対応できる態勢が整ったといえるはずで、たぶんDrupal7でのdrupal.orgは短期間のものになるかと思います。