天地明察

Image of 天地明察(上) (角川文庫)

とっても素敵な一冊に出会いました。著者はコミックの原作も手がけるそうですが、コミックを読むようにあっというまに読み終えていました。(実際に本著のコミックも出ているようです。)読後感も爽やかで、自分の知らなかった世界を知ることができたという知識欲的な満足感もあります。「陽だまりの樹」を読んだ時のような、そんな感じです。

時代は江戸時代が初期から中期になろうとする四代将軍家綱の頃、主人公は、御用棋士で後に天文暦学者として名を残すことになる渋川春海(安井算哲)。恥ずかしながら本著で初めてこの人の名を知りました。幕末や戦国時代の作品に触れることは多いものの、泰平の世のこの時代の作品に触れることは多くありませんが、主人公の波乱万丈の人生だけでなく、戦国の世から泰平の世が自然に作られたのではなく、多くの人達の努力により構築されたのだ、ということも本著のひとつのテーマになっています。

明暦の大火で焼失した江戸城の天守閣が再建されることなく、天守閣があったところに青空が広がる描写が何度も登場するのが象徴的です。この大火をきっかけに江戸の町は生まれ変わり、戦うことを生業としていた武士が新しい価値観の下に生きることを求めらる時代になりました。

そんな新しい世の中をリードする大老酒井忠清や保科正之、水戸光圀に非凡な才能を見出された春海は改暦、新しい暦づくりの命を受けます。

命を受けたのがまだ20代半ば、多くの協力者を得て、うまくいくかと思われた事業も実際に実を結ぶまで20年以上かかってしまいます。その経緯はぜひじっくり読んで楽しんでください。

和算の祖、関孝和との出会いも魅力的です。同年代でありながらライバルともいえる間柄となり、実際に関に出会うまでも長い時間がかかるのですが、その初対面のシーンも実に意外なかたちで実現します。

著者、冲方丁(うぶかたとう)はまだ35歳、この若さで天文、数学、歴史、宗教をよく調べ、それを元に人間の機微をよくここまで描いたものだと感じ入ります。若さを描くだけでなく、高齢者への尊敬と優しい視点も強く感じられます。これからが楽しみな作家です。

9月に映画化されるそうで、岡田准一、宮崎あおいというキャスティング。悪くないけど、自分としては、大沢たかお、綾瀬はるか、で見たかったなぁ。